第16話「金を払って入るご近所さんの話」

更新日:2023/04/01

 桜のつぼみも膨らみ始めた弥生三月この良き日に、と卒業式の式辞みたいな書き出しですが、卒業、就職、異動と別れの季節となりました。さて、今月も祖父が残した謎の言葉シリーズです。今回の舞台は、南山手が誇る世界遺産、そうです、あのグラバー邸です。

 

 前回お話ししましたとおり、祖父は外資系商社の大北電信(The Great Northern Telegraph)に勤めていました。イギリスから入電される情報を各国の商社に提供する仕事です。その取引先の一つにグラバー商会がありました。祖父が勤めだした頃には、トーマス・グラバーさんは亡くなっていて、息子の倉場富三郎さんのホーム・グラバー商会が取引相手となっていました。祖父より30歳年上の富三郎さんは、流暢な英語を話す日本の青年をとても可愛がってくれて、家にもよく招待してくれたそうです。我が家から徒歩5分のグラバー邸、ご近所さんのつき合いだったようです。

 時は流れて富三郎さんも亡くなり、グラバー邸は大きく様変わりしました。敷地周辺を市が買い取り、近隣の洋館群を移設してグラバー園が誕生したのです。長崎市の観光名所の代名詞となったグラバー園、連日観光客で賑わっています。(コロナで一時閑古鳥でしたが、見事に復活しました。)

 さて、ここで祖父の登場です。観光施設となったグラバー園は当然有料です。しかし、祖父はこれに合点がいかなかったようで、「ご近所さんに行くのに、金(入場料)を払うのはおかしい。」との名言を放ち、グラバー園に隣接する安田さん(当時安田汽船会長)の庭から入場する暴挙に打って出たのでした。この教えは親子4代に渡り踏襲され、私の子ども達も安田家の老犬をまたいで、ご近所さんに遊びに行くこととなったのでした。

 更に時は流れて安田さんも亡くなり、安田家とグラバー園の境界線にもフェンスが設置され、入れなくなりました。おかげ様で、今はご近所さんに正々堂々金を払って入場しています。

 

 グラバー園のブライアン・バークガフニ名誉園長、指定管理のウォーカーさん、祖父の教えを守り無料で入場していたのは20年以上前の話です。どうかお許しください。

 

「1870年頃のグラバー邸」(長崎大学 古写真データベース)

 

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