第30話 「南山手・芸能人シリーズ③ ―美人女優と坂道を歩く―」

更新日:2024/06/01

 梅雨時です。毎日鬱陶しい日が続きますが、今回は目も覚める美人女優の話です。鼻の下を軒下まで伸ばしてお読みください。

 

 前回お話しておけばよかったのですが、実はほとんどテレビを観ません。20代の頃に活躍していた芸能人はわかりますが、それ以降はかなり怪しいです。これは困った展開になるなと思ったあなた、正解です。今回の話はまさにそれです。

 

 あれは忘れもしない何時だったか、多分40代半ばの夏頃(忘れてるじゃないか、と突っ込んではいけません。)帰宅しようとしたら何やら家の周りが仰々しい事になっていました。坂道やうちの庭に照明が焚かれ、カメラやマイクが並び立ち、多くの人でごった返しています。そうです、映画の撮影です。坂道を下る途中にスタッフの方に呼び止められましたが、家主とわかるとどうぞお通りくださいとなりました。

 ふと見ると、秋のシーンを撮影するのか落葉まみれの坂道に、綺麗な女性が佇んでいました。思わず「女優さんですか?」と声をかけると、付き人と思しき女性から「はい。」と言う返事、ここは素敵なおじさまに徹しようと「お嬢さん、この坂道滑るから気をつけてくださいね。」と渋くエスコートしました。女優さんはお淑やかに黙々と歩く中、付き人は活発で途中から「ソーメン食べたい、ソーメン食べたい。」と連呼していました。仕方ないので島原の「山の寺 邑居」を教えてやると「今から行く、今から行く。」と、大はしゃぎ、残念ながら閉店まで30分、絶対に間に合わない時間だったので止む無く断念したのでした。

 

 家に帰って、話すと「誰、何て言う女優」と家内と娘は一目散に坂道を覗きに飛び出して行きました。ここで、全ては解明しました。女優は中谷美紀さん、夢想癖がある地味な市役所勤めの女性のラブストーリー「7月24日通りのクリスマス(2006年公開)」の撮影でした。ただし致命的な間違いがありました。何と女優と思っていたのは付き人で、付き人の方が本人だったのです。ああ無情。

 家内と娘をはじめ皆さんの罵詈雑言に抗弁させてもらうと、「地味な市役所勤めの女性」役に徹していた中谷美紀さんの演技力に見事に騙されたということでしょうか。

 

 次回は主演級の男優勢揃いの話です。ご期待ください。(つづく)

 

 

「7月24日通りのクリスマス(2006 ©東宝)」

 

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