第36話 「ホテルインディゴ長崎グラバーストリートの話」

更新日:2024/11/30

 季節は廻りいつしか年末となりました。今年最後の小部屋は南山手の新たな名所の話です。ちょっと豪華な話ですのでご期待ください。

 

 表題の「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」、耳にしたことがある方は少ないと思います。それもそのはず、業界最大手のイギリスのIHG(インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ)と提携した日本の森トラスト・ホテルズ&リゾーツが運営する西日本初のインディゴグループのホテルでした。何のことかよくわからないという素敵な貴方のために、10文字で表すと「富裕層向け高級ホテル」のことです。このホテルの場所が南山手なのでした。感がいい読者の皆様はもうお気づきと思いますが、そうです、国指定文化財のマリア園がホテルとして生まれ変わったのでした。

 

 世界中でホテル事業を展開する森トラスト・ホテルズ&リゾーツ、歴史的建造物をリニューアルするのは軽井沢の万平ホテルに続き、国内2番目となります。通常の高級ホテルでは満足しない富裕層に、リアルな文化財暮らしを提供しようという訳です。

 マリア園の正式名称は「イエズス会修道院」と言います。1880年に布教本部と孤児院としてフランス人修道士によって建てられました。修道会本部が移転してからは孤児院と幼稚園を清心修道会のシスターが運営し、近年は民間事業者による児童養護施設になっていました。煉瓦造2階建の上に銅板張りのマンサード屋根を乗せた3階建で、リブ・ヴォールト天井の礼拝堂(3話参照)も備えています。平成3年に我が家と同じく文化庁から重要伝統的建造物に指定されました。(1話参照)築140年を経ても煉瓦造と緑に変色した重厚な屋根が洒落た雰囲気を醸し出す素敵な建物です。孤児院や児童養護施設としても使われていたので、部屋数もあり居住性は十分です。しかし、ホテル開業までには涙ぐましいハードルがありました。

 一番の難題は耐震性でした。古い建物なので旅館業法の基準を満たすには大幅な改築が必要です。建物の外側を鉄骨の筋替え(X型の補強材)で覆うのが一般的ですが、文化財は外観の変更ができません。この課題を審議することになったのが、「長崎市伝統的建造物群保存地区保護審議会(略称 伝建審)」です。長い名称ですが、メンバーには東大教授や元文化庁調査官もいる強力な団体です。(なぜか私もそのメンバーです。)審議を重ね最後は赤坂の森トラスト本社で大詰めとなりました。伝建審の提案は、一旦内部を解体し補強して復元する工法です。もちろん費用と手間は半端ではありません。他にも様々な注文を出しましたが、森トラストが承諾しマリア園ホテル化計画はスタートしたのでした。

 工事は2年近くかかりました。屋根を外し煉瓦の外装だけを残して、本体内部を作る工程は見ていて圧巻でした。(19話参照)工事を請け負った松永建設の見事な技術力です。

 

 オープン前の6月、ホテルの皆さんが挨拶に来ました。以前本社でお会いした森トラスト取締役の増永義彦さんを筆頭に運営スタッフの方々です。特にホテル総支配人の丹羽秀之さんは、お若いですが柔和で品がある方でした。ホテルの盛況が目に見えるようです。

 

 ちなみに、1泊10万円の価格設定はオープン特価で今だけ3~5万円です。皆さん、ヘソクリを引きずり出して泊まりに行きましょう。浮いた分は、うちの庭に投げ銭してもかまいませんよ。それでは、よいお年をお迎えください。

 

 

       ©森トラスト・ホテル&リゾーツ

 

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