第45話 「版画家 田川 憲の話⑤ ―南山手10番館―」

更新日:2025/09/06

 暦の上では秋となりましたが、全国的に記録的な猛暑日が続いています。残暑お見舞い申し上げます。いよいよ最終回となった田川憲シリーズ、暑さに負けず最後までご覧ください。

 

 田川憲は絵のモチーフが集中する南山手で晩年を過ごし、終の棲家は「南山手10番館」でした。居留地時代、洋館は番地に1~2軒しか建ってなかったので、南山手10番地の洋館は10番館と呼ばれていました。(ちなみに我が家は21番館です。)

 さて、「南山手10番館」。これでピンときた方はかなりの歴史マニアです。そうです、戦争により運命を狂わされた悲劇の男「倉場富三郎」さんが、グラバー邸を追われて最後に住んでいたのがこの家だったのです。(23話参照)奥さんのワカさんも富三郎さんもこの家で亡くなっています。田川憲はグラバー邸も複数描いているので、生前の富三郎さんと交流があったと思われます。曰く因縁があるこの家を終の棲家に選んだのは、何らかの思いがあったのでしょう。もちろん、田川憲は南山手10番館も作品にしていますが、他の作品に比べて色合いが暗く寂しい感じがするのは、この家の来歴を知っているからでしょうか。

 

 年月とともに南山手の街並みも変わり、居留地時代の風景は田川憲の作品でしか見ることができなくなりました。取り壊されてゆく街並みを、情感あふれる版画で残してくれた在郷版画家 田川 憲氏に改めて敬意を表したいと思います。

 

 田川憲の作品は、長崎県美術館が所蔵していて定期的に展示されます。周年には回顧展として全作品が掲示されることもあります。また、お孫さんの田川俊さんのギャラリーSoubi’56(42話参照)で見ることができます。南山手町並み保存センターにも数点展示していますので、お立ち寄りの際はご覧ください。

 

 

 

      「南山手10番」(1959年)

 

    田川 憲(田川俊氏 所蔵)

      

 

第44話はこちら
 一覧に戻る